色神/リリー
 
 ピアノの鳴る室に
 ふと情事の匂いを嗅いだ
 犬や猫の恋ではない
 汚れ切った人間の恋でもない

 冷たい冬の北大路をよろめきながら
 月の無い日をさまよって
  この生命
  唯美しく生き行かむ
  君一人が在す世なりせば

 陽の沈む方へ裸足で歩いて行くと
 見えてくる
 伸びた樹の梢に貫かれている暮天

 愛しいその梢に
 ロンロンとたわむれる風の楽の音は
 笑って
 笑って満ちてくる寂しさに
 押し流されて
 そのまま戻って来ないだろう

 湖の対岸の灯に憧れて吹き続ける口笛の
 単調なメロディーの様に
  、
 情事とはかくもありたい

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