鏡像 【改訂】/リリー
序章 「橋」
瀬田川に架かる鉄橋に軋む音。光の帯は今を、過ぎた。
友人の引っ越し祝いで新居を訪問した帰り、瀬田唐橋の欄干から眺める
そこに拡がるものは、時の流れすら呑み込んでしまいそうな濃藍の川面。
波は無く、岸の夜景も鏡像かも知れない。この先に、湖はあるのか?
数日前に友人からの電話で聞いた話は、苦い余韻を私の胸に留めていた。
「この間……面会に行ったら、私のこと分からんかったわ。一緒に暮らして
た時は、そんな事なかったのに。口も達者やったのに! 施設へ入るとな
……どうしても」
JRの駅前で家賃七万円のマンションを売却し、二人暮ら
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