Ticket To Ride。/田中宏輔
 

ぼくの気持ちを、ぼくに思い出させようと
ぼくの目と耳に思い出させる。
ポキッ
鉛筆が折れたときの光景と音がよみがえる。
鮮明によみがえる。
目が
耳が
顔が
折れた鉛筆に近づいていく。
ポキッ
再現された音ではなく
そのときの音そのものが
ぼくのことをはっきりと思い出した。
ここで転調する。
幻聴だ。
また玄関のチャイムが鳴った。
いちおう見に行く。
レンズ穴からのぞく。
だれもいない。
ドアを開ける。
だれもいない。
だれもいない風景が、ぼくを見つめ返す。
だれもいない風景が、ぼくになり
ぼくは、その視線のなかに縮退し
消滅していった。
待ちなさい。
空白だ。
今年のポエケットでは
あつすけは削除されている。
笑。
だれひとり入れない天国。
訪れる顔は
空白だ。
女給の鳥たちの
死んだ声が描く1本の直線、
そこで天国がはじまり、そこで天国が終わるのだ。
線上の天国。
笑。
あるいは
線状の天国。





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