のらねこ物語 其の二十九「雪景色」/リリー
 
 近江屋の旦那様のお部屋で
 拭き掃除を済ませた おりん
 その書斎には お嬢様のお部屋にあった金魚の
 水草浮いた陶器鉢が移されていた
 今は 黒出目金と赤い琉金が数匹泳いでいる

 お嬢様は昨年、縁談が持ち上がり嫁がれたのだった

 おりんが縁側に来ると中庭で
 昼の休憩時間中の手代と若旦那様の御坊ちゃまが一緒に居て
 「それっ!」
 手代の手から舞い飛ぶはずの竹蜻蛉は
 上手く回らず砂地へ落ちる
 「なんだよお…!」
 つまらなそうな御坊ちゃまに
 「どうもすみませんねえ、何でだろうなぁ?…。」
 頭下げて苦笑いする一番年下の手代が
 それを拾い上げ 首を傾
[次のページ]
戻る   Point(6)