のらねこ物語 其の二十五「如月の雪」/リリー
「今日は 良いお日和でございますな。」
店の者に挨拶して来たのは
落ち着いた身なりの中年の男
店の御主人にお目に掛かりたいと申し出る
狭い客間へ通された男は
手にする藍染の風呂敷包みを主人の前で開き
小さな木箱を取り出したのだ
「これを、ぜひとも近江屋さんに貰って頂きたいんでございます。」
男が箱から両手で取り出したのは
腹部の底に名入れされた 木彫りの金魚
それは上見の美しい「金魚の王様」の異名を持つ蘭鋳
背鰭のない 丸いずっしりとした体型に
頭の肉瘤の隆起まで細やかに彫り込まれ迫力があった
漆で塗られる素赤の金魚は両目をうすく閉
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