のらねこ物語 其の十七「金魚の掛け軸」(二)/リリー
 
 「変ね…窓閉まってるのに。」

 おりんの金魚が死んだ その晩のこと
 湯屋から店にかえった おりんは
 小窓のわきに吊るしてある掛け軸が 畳に
 二つ折りになっているのを掛け紐つかんで持ち上げた

 「えっ、え…?」
 おりんの目は穴のあくほど掛け軸の本紙を見詰める

 「おきぬさんが、蒸かし芋出来たからって呼んでるわ。
  あんた好きじゃない!」
 一緒に湯屋から戻った おゆうの
 梯子をかけ上がって来る はずんだ声
 その言葉にも振り向かないおりん

 「ちょっとお、ねっ、どしたの?」
 「見て。…これ…。」
 やっと振り返る おりんの掛け紐を手にする顔
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