のらねこ物語 其の十六「金魚の掛け軸」(一)/リリー
「こんな掛け軸さ、女中部屋に贅沢だよねぇ!」
おゆうは小窓のわきの壁に釘を刺して
御隠居が おりんに渡した掛け軸を吊るすと眺める
本紙の中央には硝子ビイドロの金魚鉢一つ
そこに 一匹の金魚
鍋島藩の 型を用いない宙吹きの技法で
成形されている金魚鉢
筆の曲線は空気以外触れるもののない、なめらかな肌合いを
手に取る様に描いている
金魚の赤は、なんと
細工紅という紅花の花弁から精製された高価な絵具よりも、
赤の純度の高い 小町紅
これは基本的に絵具ではなく口紅用であり
上物の浮世絵に使用されていたのだ
美麗な本藍を薄くのばして
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)