のらねこ物語 其の十四「金魚玉」(三)/リリー
 
 その日 近江屋の縁側で鳴っていた
 庭師の枝切り鋏は申の刻に止んだ

 お使いの出先から六ツ半にかえった清吉は
 一人遅い夕食を済ませると 土間へ降りてきて
 大きな身体を二つに折り おりんのそばに
 しゃがみ込む

 おりんは流しの たらい桶で茶碗を洗っていた

 「おりんちゃん、これ、あげるよ。」
 指先に 紐をつまんで持っていた金魚玉
 眺める清吉は言った
 振り向くおりんの目が金魚玉を捉えると
 「えっ、あたしの金魚!?」
 
 「そうだよ。帰りに辰巳芸者の蔦吉姉さんから
  もらったんだ。君に、あげよう!」
  いつも、お嬢様の部屋の金魚鉢
  う
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