のらねこ物語 其の十二「金魚玉」(一)/リリー
「茶トラ猫、あの日以来…来ないわねぇ。」
近江屋、厨の上部の隅
かけてあった梯子を床から上げる おゆうは独りごちる
そして 三畳の間に敷かれる煎餅布団に座って
脇に置かれた小さな手洗い桶の金魚を見ている
おりんの背中へ話しかける
「あんたさ、大事にしてた金魚玉、御隠居様にあげちゃったけど。
良かったの?」
「いいのよ。だって、清吉さんが…。」
女中部屋の軒に昼間
冬の水草入れて吊るしてあった金魚玉
昨日 それを遠目で見つけた旅の御隠居が是非譲って欲しいと
店の者へ願い出たのだった
おりんちゃん、しじみ売りの辰坊の母ちゃ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(6)