のらねこ物語 其の七「裏長屋」(一)/リリー
 
 下弦の月が冴え
 よく冷える晩のこと

 「おい、炬燵とは豪勢じゃないか!」

 浪人が、長屋の玄関の戸を開けて
 迎え入れた友だちは羨ましそうに言う
 煮炊きする へっついの傍
 熾の入った火消し壺に身を寄せて
 うずくまり眠っている イワシ

 台所の土間に立つ二人
 酒持って訪ねて来た浪人の友だちへ
 笑いながら手をふりふり

 「いやいや、あわてるな。犬に布団を被せ犬の腹へ足を
  おっつけていたんだ。これがなかなか温かでな、
  こたえられん。おまえもどうだ、ひとつあたらんか?」

 「ほほう、そいつは名案。ちとあたらせてもらおう。」

 四畳
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