のらねこ物語 其の三「イワシ」/リリー
 
 「どう、あんたも。旦那様が飲んだ出涸らしで、お茶入れてきたわよ。」

 女中部屋の粗末な座卓に
 不似合いな 黒砂糖饅頭が五つも
 「どうしたの?コレっ。」
 目を丸くする 飯炊きおりんへ
 急須片手に自慢げな笑みを讃える
 おゆう

 「昼間さ、おきぬさんに呼ばれて。奥様から叱られてきた、そのお礼よ。」
 「どういう事?」

 近江屋の勝手口
 戸板にイワシが爪を研いだ跡
 それを見つけた奥様が、お嬢様のお部屋の金魚鉢を心配して
 気をつけるように注告したのだ

 「あたしが、残飯やった事になってんのよ。」

 イワシとは 近江屋のある一帯でひっそり小間物
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