二月十日土曜日/夏井椋也
いまだに風は
冬を吹聴していくが
すでに光は
春を祝福している
押し黙る蕾は
華やかな企みを内に秘め
気象予報士を惑わせながらも
季節は巡ろうとしている
代り映えのしない今日が
気づかぬうちに更新されていくというのに
わたしは猫の額のような庭に根を張ったまま
入院した猫のことを考えている
そうなんだ いつだって
こうやって 私は置いていかれる
すべてのことに置いていかれる
が
歩かねば
ならない 追いつかねば
ならない
だいぶ和らいだ空をぼんやり眺めていたら
自転車のベルがチリリと鳴った
あなたが手を振っている
きまり悪そうに
わたしも手を振り返した
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