無精卵は孵らない/
 
にある呼吸の多くは思惑の乗り物であり、
   誰もピリオドを捕まえようとはしていない〉

白い卵はピリオドの間を縫うように転がった
ころころ ころころ
若い夕陽の照らす目黒駅を
ころころ ころころ
東京にいる人たちの踏む地面を
ころころ ころころ

転がって 転がって
いつの間にかホテルのベッドの上で
人の姿で泣いていた。
それから特別感のない夜景が見えたのでカーテンを閉めた。

   * * *

あれから幾年か
ヒヨコたちはどんな鳥になっただろう
今も理想を追い羽ばたきを止めずにいればいいな
なんて人事

あの翌年
私は貧乏の為に東京へ行くどころか養鶏場を去ったのだ
ヒヨコの行く末を案じる
なんて茶番

   * * *

本当は
東京にも貧乏にも罪はなかった。

小さくとも嘴さえあれば
か細くとも足さえあれば
どこへでも生きていける

はずだった。


私は東京へ行くよりもずっと前から真っ白な殻の中で腐っていたのです。


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