ベランダ/たもつ
 


お隣のベランダで
お葬式が始まっている
空は澄んでいて
ご焼香の良い香りが漂っている
わたしの持っている図書館は
翼が無いのに透明だから
時々午睡をすると
豆腐の表面にも
良い風が吹いた
林檎だけ食べて育った兄は
初めてできた娘に
林檎、と名付けた
他には何も知らなかったから
ずっとそうだったから
だって昨日も無かったじゃないか
参列する子供が泣いて駄々をこねる
無いことも
無くすことも
悲しいことと皆がわかっている
それならばわたしたち
せめて守れ
お坊さんの読経が聞こえる
よく知らないお隣さんを偲んで
目を閉じる





(初出 R6.1.26 日本WEB詩人会)
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