入退院後の日記/由比良 倖
界に耳を澄ませていた。周りの声や物音や人たちから、自分が乖離していて、時々、僕には社会的な役割が無いことが心細くなったのだけど、その心細さがまた、中也の詩の気持ちと不思議にシンクロして、こんなにふたりきりで中也と語り合えたのは、そう言えば本当に久しぶりだと感じた。まだ友達もいなかった、大学の入学前のアパートで感じたような気持ち。中也が確かに生きている世界に、自分もまた、存在しているということ。
入院の何日か前から、薬を抜いていた。急に薬を抜くと、感情が真っ白になる。自分のコントロールが出来なくなってしまって、気持ちの中の穏やかな着地点を見失って、訳もなく怒りが湧いてきてしまう。周りの誰もが
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