金魚玉/リリー
 
 「どうしたのさ?それ。」

 厨の上部の隅
 かけてあった梯子を床から上げる
 おゆうの さぐり目が
 三畳間の小窓
 竹表皮も渋くなった簾の軒へ注がれて

 「弱っているからって。お嬢様がくださったのよ。」
 それきり はにかみ黙る飯炊きおりん

 「そおなの…。その鉢は、どうしたのさ?」
 「金魚、陶器鉢へ移したから。手代の清助さんが一つくれたのよ。」
 「ふう…ん。清助さんがねえ。」

  ようよう十二になる おりんの髷へ顔向けていた
  小さな和金、
  吊るされるビイドロの小鉢で
  身ひるがえし

 それ以上 なにも聞かず
 僅かに眉ひそめる
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