大つごもり/そらの珊瑚
 
義母が黒豆を煮ている

石油ストーブの火を小さくして
その上に置いた大きな鍋から湯気と香りが立ち上っている
こういうのをコトコト煮るっていうんだろうな、と
一歳になったばかりの子を抱っこして眺めていると
ふっくらと育った
しわひとつない黒豆っ子たちは
黒い温泉に浸かって
つややかに
幸せそうに光っている
生きてるね
生きてるよ


「コツはね、古釘を入れるのよ」と言う義母の言葉はちょっとした衝撃だった
そもそも黒豆を自分で作ろうという気持ちなど
そもそもわたしにみじんもないくせに
古釘は衛生的にどうなんだろう、
洗えば大丈夫なんだろうか、
でもどうやって探したらいいのだろう、
まさかお店の乾物コーナーに売ってないよね、
困っちゃうよ、
などと思ってみたりしたのだった

床の一部がぎしっと鳴る古い台所も
今はもうない
時の尻尾を捕まえ損ねたわたしに
黒豆と古釘のまぼろしを見せながら
一年がまた過ぎていこうとしている
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