あいつとわたし その1/佐々宝砂
 

まっさおな空を飛んでいったり
砂漠の道をどこまでも歩いたり
廃墟の街角にたたずんだり
そんな夢を
いっときだけかいまみせる

などという芸当も
あいつは
けしてできやしない

それは承知だ
つきあいは長いのだ

窓にノックの音がする
誘いかける声がする
あいつが
地上の誰よりすてきに微笑して


 ここにおいで
 色とりどりの闇が
 うずまいて
 きみを待ってる


いまにも食らいつきそうな
大きな口で微笑して
誘いかける

わたしはいまのところ
計算しながら耐えている
考えなくてはならない

これは
断じて
逢い引きではない

取り引きなのだ

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