抱 擁/塔野夏子
 
思惟のふちから
言葉が崩落してゆくとき
僕は君の夜を抱き
君は僕の夜を抱く

その暗い球体の中に
守るべきすべてが
あるかのように

たとえばそこに
紅い薔薇
暗さの中では
もはやその紅さも意味を持たないとしても

君にとってそれが
紅い薔薇であるならば
それは守られなければならない
思惟のふちから
どれほどの言葉が崩落しても

守ることで
守られる
そこにだけ生まれる
ひたむきな祈りがあるから

僕は君の夜に抱かれ
君は僕の夜に抱かれる
紅い薔薇が
幻にすぎなくても


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