デーモン/リリー
 

 酒房に足をふみ入れたとたん
 行方の知れなかった心が
 戻って来た

  日頃 胸の底に巣喰う黒いものが
  熱っぽく溶けて肉にしみ入ってくる

  私に降る 師走の雨

  今をかたむけてゆく先斗町の通りを
  歩いているのも
  悲しみとは 違う

  形無く宿る黒いもの
  その部分だけが炎をあげている
  私の冷え切っている躯が
  そこに打ち伏して
  朽ちてしまうまではというように

 華やかな音が いきなり耳に飛びこんだ
 酒の匂いの中に私はきりきりと舞いながら甦り
 笑う事が出来た
 
 
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