龍馬の右手/そらの珊瑚
 
写真の坂本龍馬の右手は
着物の中に入っている
「何か隠し持ってると思う?」とキミは訊く
ピストルとか? 物騒な時代だったから。
物騒な時代が終わったというわけでもないけれど

だけどもう誰にも真実は分からない
「単に寒かったからじゃない?」キミは言った
そうかもしれない
寒いから懐で指先を温める
私達は複雑なパズルに疲れていて
単純なワンピースにひととき和みあった
生きている身体の中心はいつも適温に沸いている
電気給湯器は壊れてしまったけれど
私は好きな燃料をくべて柔らかく燃えていこう
ブリザードに触れ凍えた自分の指先を温めるために

龍馬は素手で
生きていることを確かめていた

時折
キミのセーターの中、
その背中に不意打ちに
冷たい私の手を入れたくなる
「うひゃっっ」
不意打ちをくらった人の声はいつもすっとんきょう
龍馬だったらきっと怒らないと嘘を吐いて
人が
絶えず燃えているのは自分だけのためじゃない
誰かのためにも燃えている
うっかり燃え尽きないように用心しながら

今日も

生きているなら





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