冬支度/たもつ
 

細々と、若い店員さんが
説明をしているうちに
柔らかな駅前には
ほんの少しの
路線バスが集まっていて
その人たちにも何か
美味しいと言ってもらえるような
ご飯を食べさせてあげたかった
散歩をする犬の新しい模様が
バスの車体に映えて
景色はたぶん
そのようにつくられていく

糸でできた白線のように
説明は続くけれど
触れてみたいものも
触れられてみたいものも
特に見つからなく
店員さんともよく相談して
わたしは冬の支度を始めた
新居を構える時
父は長火鉢を据え置いた
寒い日は火鉢の前に座り
炭火のお世話をしていた
火鉢や実家も
見あたらなくなって久しい

店員さんの冬の説明が
線から点線となり
やがて点となり
声の色や形は透きとおっていく
何もないのと引き換えに
何もないのを受け取る
いつまでもその繰り返し
消えかかる店員さんの仕草が
火箸を触る父と重なる
会ってから今まで
わたしを下の名前で呼んでいたのは
そのせいかもしれない





(初出 R5.11.22日本WEB詩人会)



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