石となりし人に/佐々宝砂
 
其の人は南洋にゐた事があつて
だから私は其の人を思ふ時
まづは珊瑚礁の島々と
南の海とを腦裏に描いてみる

南洋の風物は鮮やかで
翡翠の海に屹度(きっと)
色とりどりの魚が泳ぐのだと思ふ
小鳥たちも屹度
其れだけで華やかな淺黄淺葱の羽根に
朱の飾羽根を見せびらかすのだと思ふ

其の人は又
流沙河(りゆうさが)の妖怪と化して
西方への旅を語つた事もあつた
首に吊した
九つの頭蓋骨が重くてたまらぬと
歎いた事もあつた

重かつたのは頭蓋骨ではなく
淨を悟らねばならぬといふ
強迫のやうなものであつたらうに


[次のページ]
戻る   Point(3)