火の月 (旧作)/石村
それはむしろ沈黙の季節か
静けさがあどけない恋を焼くのは
お前の微笑みに宿るいつもの翳が
僕の限りない望みをひそかに砕くのは
「フォーヌよ七月の訣れの笛を吹け
フローラは永遠の時を得た
なぜなら今を失くしたから」
「それなら地の果てで 太陽と薔薇に刺された僕の血を
火のほかの何が購つてくれるといふのか?」
たれも涙を見せて消えて行くことはない
あてのない思ひにすべてを託して
深い空を見上げてゐるのだから
やつれた緑を揺らす光のはざまに
翼をたたんでもう飛ぶことはできないのだから!
永遠は愚かさに燃え落ちて
海に溶けてゆく宝石
僕が追ひかけてゐたその夏を
通り過ぎて行くのはやせた火の月の天使の列
だから陽に焦げた街に濡れた西風が吹く間
ただれた白のカンバスに 遠くの海の青を塗れ
(一九九六年七月八日)
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