言葉がてらす魔女の落胤/菊西 夕座
 
そんなものは信じていないからっぽの樽の影が
言葉のなかに黒々と鎮座して深淵をかかえこんでいる
わたしたちが腰痛を少しでも自由のほうに傾けると
いつのまにか言葉は樽に廃液をつめて腰かけている

腰から痛みがヒトデ状に産卵して樽にひびがはいり
深淵に張り詰めていた粘液がじんわりと頭をもたげ
無数のひびの隙間からトサカのように液をふくらませ
まるでノコギリの刃(やいば)よろしく腹をさいてにじみだす

樽の蓋が腰のおもみにたえかねて断末魔の悲鳴をあげると
腰痛もちの患者は深淵のそこへ真っ逆さまにひっくりかえり
樽のくちから跳ねあがる誕生のしぶきが月にまで粘りつく

そんな天下りはひとつも信じていない己の影が
否定のなかに黒々と鎮座して樽を敷き詰めている
現実で空虚をかかえこむたびに言葉がのみほして「足る」とする

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