約束/たちばなまこと
 
もうすぐ船が発ちます
朝までには雨の都に着きます
深い夜にさしかかる船室で
二分の一の足取りの 旅の者は寝床に誘われ
誰も彼ものまぶたが重く まどろんだ呼吸が漂っています

共犯者のあなたは 忘れ物を探しに
港へ戻るそうですね
私のまぶたの重みは 船内では一等上で
手をほどけばすぐに おちてゆけそうです
微熱にふれるあなたは うなずくだけで背中を向けて
見えない誰かの心をのぞきに 船を降りるのでした

微熱が見せる夢というのは 心理を溶解してゆくものです
酔うほどに 揺れる寝床であなたを探して
まぶたを押し上げても 琥珀の沈黙がいるだけです
帰るという約束ですら 夢
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