ウサギと鍵と橋に関する断章/佐々宝砂
れた。そうだろう橋に鍵はいらない、と思ったら、橋のたもとの小さな水栓に鍵穴があった。これか、と鍵を挿すと流れだしたものがウサギに変じた。橋姫を見ませんでしたかとウサギは問うた。
その海辺の町に橋はない。広い河を越えるすべはない。河岸で広い広い河口を見ていたら一匹のウサギが流れていった。どこまでゆくのだろう。海までゆくのか。海を越えて橋のある遠い町までゆくのか。私は思い立ってもう必要のない鍵を投げた。ウサギと一緒に流れるがいい。
ウサギの所有は禁じられています。役人の表情は硬い。そこをなんとか、と迫るが埒があかない。窓口でいきりたつ私に順番待ちをしていた女が鍵をくれた。これはウサギを所有できる街に行ける鍵です。それから私はいくつの橋を渡ったか。まだその街には着かない。
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