無題/朧月夜
誘うように、それは語り始めた。意識のうえに上るものが、必ずしも真実ではないと、それは告げているかのようだった。物質に満たされたこの世界において、心とはいかにもはかなげなものであり、今にも消え入りそうだと、あなたは思わないか? 例えば小鳥が鳴く、小鳥は意思を思惟して鳴くものではないだろう。ただ、本能によって鳴くのだ。だとすれば、我々の叫びとは? 我々の叫びとは、自我の萌芽であることは間違いない。それは良いのだ。難しいのは、そこから先へと行くことだ。我々は常に思惟している。そのまどろっこしい混線のなかに、我々の意識は存在している。未だに、理性と心理との懸隔を謂いする論争は、後を絶たない。あなたは何に
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)