暗転 (旧作)/石村
づとおろかな思ひを逡巡(うろつい)てゐる
いつたいそいつはなんのざまだ
きこえる きこえる(しづくはもえる)
いまとなつては浪ばかり なづむ情炎のゆくへもしれず
私はみづいろの薄明に陥ちてゐるのか……
貝殻を灯せば霞たちみち
ひそやかに溶け入るぬばたまの闇の息遣ひに
万象はぎこちなく諧調し流れ
あやふやとやさしい聖歌がきこえて来ると
何だか毀(こは)れたオルガンのやうな具合です
ああ、何でもないのでせうか つまり綺麗な夜なのか だつたら
ただいま虚空をおつとりとあゆんでゐるそのものを
私はしみじみとかんずれば よいのか
それでよいのか あをざめて
氾濫のみをくりかへす暗点の身よ……
あのものに はげしくちいさくすべてをかんじるあのものに
時に余りな憎悪をもつて私は祈つたが
やがて来るたけだけしい逆流の予感に
私の心は波打つて波打つてゐた
(一九九一年六月十日)
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