郷愁 二/乾 加津也
いくつもの
物語の
すべてが語られて
ひとりの人として集められて
終わるころには
陽の光から逃げるような
細く長い影が
やっぱりひとつ
薄く 揺れるだろう
生まれてからは
笑い声を拾って聞いていた
私の耳から
破れた膿が美しく
受けとめた掌で
内側から輝く
こんなことならとは言わない
生まれ変われるなら とも言わない
言葉は可能性を腐らせる
いまの私の これらの記述も
有機物の臭いとともに腐っていく
ただ出てきただけの
膿を愛でる
泣きながら 耳に戻すような
所作をする
一瞬だけ 影は濃くなる
私の重さとは裏腹に
愛する人の
なんと明るく 軽やかなことか
戻る 編 削 Point(12)