メモ1/由比良 倖
 
に出会うたびに、出来るだけ平静に「また脳の病気だ」と言っていたら、その内、「いや、病気じゃない」という低い声がプラスされるようになってきて、これはちょっと怖かった。
 雨戸ががたがたいう音がどういう訳か、僕には何の関係もない、イタチとネズミの日常会話として聞こえたり、夜中椅子に座っていると、外から僕を殺そうとする二人組の押し殺した声が聞こえて、ひょっとしたら本物だろうかと疑ってしまったりもした。そういうエピソードのひとつひとつは、奇妙ではあって、いかにも病気っぽいけれど、実際には僕の精神と外界の全てを満たし尽くした不穏な感じの方が、幻覚そのものよりもずっと怖い。
 そんな恐怖の中では、ヘッドホ
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