メモ1/由比良 倖
 
えてくれない。割れたグラスを台所の窓辺に置いて、それに陽が当たってきらめくのを、朝、煙草を吸いながら見ていたい。――折り畳むことが出来る、蝶の本。血で描かれたカモメのシルエット。夜に浮かんでいる。

 ……優しい時間が恋しい。静かな夢のように活字たちが呼吸する、書庫の中で眠りたい。小さな街が恋しい。誰か、何処か、僕の為に存在し続ける場所があるはず。希望。探し続ける。
 僕はここから脱出したい。


3.1
 僕は23年間病院に通っている。初めは過敏性腸症候群と言われ、ロペミンだったかコロネルだったか、名前は忘れたけれど、たしか腸の薬を飲んでいた。段々鬱がひどくなってきてから、処方薬が
[次のページ]
戻る   Point(3)