憂いの卵/そらの珊瑚
 
庭のウッドデッキに
細長い枯れ枝が落ちていた
薄いカーテン越しに見ていると
その先端が微かに動いている

枯れ枝ではない何者か

無機質だと思っていたものが
実は違っていて
ぬめったひかり
咀嚼音が聞こえてきそうな
夏と秋の幕間
脚のない命に
飲み込まれていくしかない黒い後ろ脚を
見送る

さらさらと時間は巻き戻る
さらさらと過ぎていったのと同じようにして
それは砂時計のようにたやすく

蛇との最初の遭遇は
まだ「憂い」という言葉を知らなかった頃

昨日より虫ひとつぶん太った蛇は
永遠に孵らない卵を抱えている
息をひそめて
わたしと繋がる暗い通路で



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