十六年ぶりに包丁を買う 冬待ち 二作品/山人
根というところまではかなり早いペースで歩けた。
2時間半後、目的の沢に着き様子を見る。とくに難しい局面も見当たらず、少し拍子抜けしたような気がした。
帰りは、周回コースの番屋山に登ってから下るつもりだった。
昼過ぎから雨は本降りを迎えていた。
雨が樹々の葉にあたり、音を立てている。とても、気持ちがいい。誰も居ない山道。ところどころ香るような紅葉が映えていて、雨なのに遠望が程よく利いている。来てよかった。本当にそう思った。なぜなら、私という容器にこんなにも、すっぽりとわたしが収まっている。
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