ピープショウ/梼瀬チカ
男はコイン無表情なキャシャーの女に払い
小部屋へ向かう
私は外界から逃れ自分の裡を見るため
こっそりと詩人の小部屋に入る
片目で覗けば裸体の淫らなポーズがちらつき
ピープショウが繰り広げられている
知っていた知らなかった私の裡の裸の自分が
見え隠れし自分を掴もうと虚しく言葉が空を切る
あれも見たいこれも見たい全てを見たい
小部屋の奥の女はマスクを覆りポーズを作りながら
いないいないばあ いないいないばあ
のぞき穴の向こうを笑っている
裸の自分を見て掴んだ筈の僅かな拙い言葉
何かを伝える為喉から絞り出すにはあまりに貧弱な言葉
詩を己の自己表現の一つと言うならばその時からピープショウ
は始まっている
欲望は膨れあがり
時間がたてば
掴んだ筈の知恵の果実は海辺の砂となって拳から落ちてゆく
またコインを払いに行けば
決して完全には覗けぬものを男は
詩人は詩人の裸体の一部を
ピープショウを繰り返す
僅かな小銭と騙され
男は欲望と引き替えに
煽られてゆく
詩人である事と引き替えに
私は私を覗くため
ピープショウを繰り返す
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