齧りかけの林檎 (散文詩にしてみました 6)/AB(なかほど)
 
しらんでしまい、
あのひとの童話、抜き出した棚に戻しません
でした。

 帰り道は晴れていて、すっかり覚えてしま
った物語をつぶやくと、齧りかけの月、歪ん
でゆきました。置き去りの絵本、店員さんに
見つかる前に誰かが手にしてくれるでしょう
か。それともその前に。



明日、泣こうと思う

 明日、海を見にいこうと思う。君の書いた
童話を持って。午前中に行けば、ゆっくりと
思いだすことができるだろう。降っても晴れ
てもかまわない。どちらにしても、君を思い
だしてるだろう。

 明日、海を見にいこうと思う。君の書いた
童話を持って。おそらく半分も読めはしない
だろう。それで十分だ。明日、海を見にいこ
うと思う。海を、見にいこうと思う。



スケッチブックを買いに

 完成した絵は一枚だけで、それも手元には
残っていない。まだ君の手元に残っていれば
などと長らく妄想してみたりなんかしていた
のだが、久しぶりに、想い出の瓶詰から取り
出してみようか。齧りかけの林檎を描こうか。




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