旅する人を描く人を恋する人を夢みる人の恋唄/佐々宝砂
幾重にも入れ子になった
夢の物語のひとつで
旅する人々が歩いてゆくのを見た
真冬の草原に鉄路が走っていて
旅をしない人々は
白茶けた駅でいつまでも待っていた
旅から帰る人を待っていたのか
旅に連れていってくれる汽車を待っていたのか
誰ひとりわかってはいないようだった
どこかで何かがあったのだと
噂だけが流れてきていた
旅する人々は
噂とも鉄路とも無関係に歩いていた
疲れた背に重い荷物が揺れた
その荷物のなかのどれかに
あのひとの気配があった
たぶん硅素系の生物が
ひっそりと音も立てずに生きている
地球ではない惑星の
有機物のひとかけらもない
そんな大地の上に
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