奏でる/由比良 倖
の音、楽しい夢のメロディの一種として構想されていて、或いは楽器との対話のための鍵として、白鍵と黒鍵の間に、注意深く散りばめられている。
そしてそれが全く無駄な鍵となることが肝心なのだ、とあなたは言う。普段、赤い鍵は鳴らない。或いは鳴らないどころか、周りの音を完全に消してしまう。けれど突然に、けたたましく聞くに堪えない音を鳴らすことがあって、そしてときには、起きたばかりの時なんかには多くあることなのだけど、白鍵と黒鍵との間で、赤い鍵は、切れ目のない旋律や和音となり、まるで聞いたことのない、見たこともない、けれどただ懐かしいと感じる、美しい情景を奏でる。それは、あなたがいつか見た光景なのか、それとも
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