奏でる/由比良 倖
 
冷戦時に於いて、地球は火星よりも、太陽に近かった。今でもそう信じているひとはいるし、そしてまた子供の教科書を書架いっぱいに集めたあなたは、八歳の誕生日に、茶色の小瓶を買ってもらって、中で蝶を飼うことに決めたけれど、大人になった今でも、あなたは蝶の捕まえ方を知らない。

私は太陽の下で、あなたが雲になるのを見ていた。あなたはピアノに白鍵と黒鍵とそして赤い鍵を何処に並べるかで夢中になっている。あなたは楽器を誰よりも知っているのに、ピアノを自己流に解釈したために、さまざまな色調の赤や白や黒の塗料とニスにまみれたあげく、夢見がちな子供や、それよりももっと薬物中毒者のための、全く新しい、そして詩的な楽器
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