プラハの桜/たもつ
 


窓の外からプラハの音がする
かつて愛していた人や物も
眠たい砂鉄のように
廃屋に降り積もっている
少し押し込むと
そこで手触りは行き止まり
肉体は肉体たちのメニューとなり
旧市街地広場の石畳に
自由落下する

カルレ橋に向かう途中で
スラブ系の老人が笑いながら
トーヤマノキンサン、と
声をかけてくる
トーヤマノキンサンは
もう生きていない
子供の頃に見ていた
中村梅之助ももういない
昭和の終わりに、江戸の時代もまた
ひっそりと終わった
トーヤマノキンサン
トーヤマノキンサン
男の欠けた前歯の奥に
暗く澄んだ肉体がある
発せられる音や臭いは

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