見上げる木蔭に思い出が降る/本木はじめ
 
やわらかく流れる小川わたくしのちひさな闇にきらめくひかり


クローバー探して回る少年と少女の絵画にみとれるぼくら


ぼくたちのこの関係を奪うのが風なら運び来るものも風


河原にはあなたがあの日ひろうはづだった丸石しろくかがやく


帰らないあなたを想う何回も風がすだれをくぐりぬけるたび


青空に無数にのびる枯れ枝の影の檻にて抱き合う二秒


貝殻をひろいあつめたゆえに砂浜に無音の海のひろがり


筆箱を埋めるあなたの微笑みや仕草がすでに無数の詩篇


被写体に選ばれなかったものたちが過ぎ去る春に手を引かれゆく


夢ばかり見ているきみの現実に生まれてこれたことの幸福


寄り添ってふたりで虹の彩光を見上げた木陰に思い出が降る



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