春霞/松嶋豊弐
 
、聖(ひじり)に至った空蝉(うつせみ)。
「春は死ぬによい折節(をりふし)。わいと心中いたしまひょう」

鏡向こうの星影は清(さや)か。
麗しの常世で巡り会うことを誓い、
痛まぬようにと、せめてもの慈しみをかけん。
さいなら、さいなら……。
今生(こんじょう)の暇乞(いとまご)い。
勾玉双つは嬰児(みどりご)の如く砕かれた。
天地(あめつち)滴る岩座(いはくら)に八咫鴉(やたがらす)立ち、乱るる神風を示す。
豊葦(とよあし)は黄金色(こがねいろ)にざわめくばかり。
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