金魚すくわれ/からふ
その喧騒の中にあって、ミス・ブランチだけは異次元にひっそりと佇んでいる
ようだった。水槽の中で絶えずうごめいていて他のものはひたりと動くのを止
めている。彼女は金の魚ではないのに金魚という種類だ。まるでこの世の物全
てを挑発してるみたいに光りながら泳いでいる。ミス・ブランチは未婚の女王
だった。何故なら、そこには彼女一匹しかいなかったから。
俺は溜まっていた留守番電話を再生してみる。ボタンを押すとミス・ブランチ
は少しだけこちらを見て、またゆっくりと泳ぎ始めた。一件目、聞いた事もな
い親戚の訃報。俺は手紙を書くためにとがった鉛筆を探し出すのに必死で、実
際にその親戚の名
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