羊の話1/由比良 倖
 
っていました。早くも酔いが覚めてきて、車内のにおいと、羊たちのにおいで頭がくらくらしました。「何て暗い顔をしたひと達だろう。そして僕も同じ暗い顔をして、同じように揺れている。僕は何であんなことを言ったんだろう」と思って、落ち着かなげに窓を見ましたが、そこには他の羊たちに混じって、ひとり自分を見返す羊さんが映っているだけでした。

羊さんはそれから毎日羊仕事をしましたが、慣れるどころかどんどん嫌になってきました。羊さんは昼休みには安い羊会社の缶詰草を急いで食べ……そうでもしないと何も食べる気がしないまま昼休みが終わってしまうのです……最初の数日は、余った時間を中庭の羊造園でぶらぶらして過ごしましたが、その内にはそれもやめて、それからは裏庭の羊倉庫のわきに、誰も来ない日陰を見付けて、そこで物思いに耽ってばかりいました。空を見上げるのがとても億劫になってしまいました。雲の形が羊会社のロゴマークに見えて背中がぴりぴりしてからは、以前のように空を見上げても「美しい」とも何とも思えなくなって、悲しいとも何とも言えない気持ちになって、空なんか見たくない、と思うのでした。
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