陽の埋葬/田中宏輔
炭画スケッチ。
変色して剥がれかかっている。
まるで乾反葉(ひそりば)のようだ。
器に盛られた果物たちの匂い、
制服の下にこもった少年たちの匂い。
すでに何人かは
絵の具を水に溶いていた。
眼は椅子の上、
じっと横顔ばかり見つめていた。
叱り声が飛ぶ。
背後に立つ美術教師の影。
はっとする級友たち、
耳を澄ます木炭画たち。
違った絵の具を
絞り出してしまった。
V
あの夏の日も、
あの少年たちの頬笑みも、
束の間の
通り雨のようなものだと思い込もうとして、
ほんとうの気持ちに
気がつかないふりをして
通り過ぎてしまった。
午後の書斎、
風に揺れるカーテン。
インインと頻(しき)り啼く蝉の声、
夏の樹が蝉の声を啼かせている。
頁の端から覗く一枚の古い写真、
少年は、いつまでも微笑んでいた。
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