陽の埋葬/田中宏輔
 
炭画スケッチ。

変色して剥がれかかっている。
まるで乾反葉(ひそりば)のようだ。

器に盛られた果物たちの匂い、
制服の下にこもった少年たちの匂い。

すでに何人かは
絵の具を水に溶いていた。

眼は椅子の上、
じっと横顔ばかり見つめていた。

叱り声が飛ぶ。
背後に立つ美術教師の影。

はっとする級友たち、
耳を澄ます木炭画たち。

違った絵の具を
絞り出してしまった。




あの夏の日も、
あの少年たちの頬笑みも、

束の間の
通り雨のようなものだと思い込もうとして、

ほんとうの気持ちに
気がつかないふりをして

通り過ぎてしまった。

午後の書斎、
風に揺れるカーテン。

インインと頻(しき)り啼く蝉の声、
夏の樹が蝉の声を啼かせている。

頁の端から覗く一枚の古い写真、
少年は、いつまでも微笑んでいた。




戻る   Point(15)