空気自転車/たもつ
話をすればそれらは
すべて白紙になる、例えば
真冬の薄暗い水面を航行してきた
一艘の空気自転車が
小さな港に着岸する
凍てつく畑を耕す幼いままの父や
瓶の底に落ちていく身体
擦り切れた衣服の裾
海が見えないくらいに
遠い体育館の午後の部で
間違えた川の名を
わたしは話し続けた
吐く、吐く息の白さを
不思議そうに見ていた弟が
新しい言葉を覚えて
辿々しく暗唱する
まだ形になっていない唇、舌、喉
その命の続きを
差し込む光が古びていく
白紙がまた産まれ
白紙は次の白紙へと
引き継がれていく
いつかは大人になる
そんな当たり前のことを
わたしたちは誰かに
許してほしかった
(初出 R5.8.5 日本WEB詩人会)
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