月光頌(らいこう29)/れつら
 
夜だったので振動し携帯電話は(僕のものではない)
別の理由もあったくさい


僕がいちばん彼をうまく扱えるのに
私を抱く彼の妻のとなりでしずかに腹を立てる若き日の父
それはエコーだよ
妻の腹に手を当てる医師の声が僕を通り過ぎる日
ひとりで酒を飲むのは
師を欠いたからだ
誰にも襲われないまま
なんやかやと生活に駆り出された中年兵の
日記を今こそ読むな父よ
それ黒歴史だから
以降は黙って


実家に帰ると弟から
水星の魔女は観たかと聞かれる
黙ればふたつ
進んでもまたふたつ
歴史は続いていく

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