黒い波/リリー
暗いバーで
黒い服がよく似合った女が
しわがれた声で私の名をきいた
煙草とウイスキーの琥珀によどんだ目で
笑いもせず何故
私を 見つめるのか
フロアから這い上がってくる冷たさ
美味な料理も作り得ず
綺麗な衣服も欲しがらず
何か
すきま風が吹きぬける
気づけば一人だった
そんな私は今日
蒼黒い波のうねりに死ぬ筈
幾度か私はむくろとなり
又 生き返ったが
その都度
波の色は何故こうも違うのか
カウンター越しに居る黒い服の女
指先に光る長くのびた爪は
涙の源が涸れているのか
ひらひら 笑い
掴み取るジッポライター
その銀色は、あおく欠けた月輪となって回りはじめる
浜風が冷たいと肩を抱いた記憶
波の間に 男の顔を思い出しながら
目をつむって見える
海底に横たわる私の白骨が薄笑い浮かべて
挨拶した記憶
今日又 渚に見る
空と海との一線に浮かんでくる男を
波のうねりを起す男を
この海の、荒れ方が私を喜ばせるのだ
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