ヨル/リリー
暗闇の中には沢山の物語がある
パリの老いた靴作りが
ハンチングを傾けてかぶっているのは
むかし街の女に
とても粋だわ と口笛を吹かれたからという話
それでその靴作りは
女房も持たずに年取って寂しい咳をしている
★
オンザロックのグラスの中には沢山の物語がある
何の木か
雑木林の中を歩くと
木もれ陽がさして
レインコートの男の後姿がいつまでも映る話
きっと落ち葉の頃に違いない
女に偽りの恋をしかけて成功して
偽りの涙で別れた男の後姿の薄いこと
離れていくに従って男
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