出生後のはなし/万願寺
 
きみが落っこちてきたとき、わたしたちは羨望と焦燥をもって迎えた。いや迎えなかった。きみが潰れるのを見過ごすのはまわりから非難されるだろうというぼんやりした想像で、どうにか両手を差し出した。きみはまちがいなくぼくたちの手の中に落ちてきた。それで、もう逃げられない、と思ったが、ぼくたちは逃げ続けて、もうそろそろ逃げ切ったんじゃないかと思いたい。
手の中のきみは、からくり植物のこまかい蔦を体に巡らせながら、金の花を咲かせるちいさな蕾を懸命にむしっていた。わたしたちは何故むしるのかと不思議に思ったが、止める義理もないのでそれにまかせていた。金の花は咲かず、蔦はちゃいろく萎んで君の体を枯れ木模様にいろどっ
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